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連載「私とESD」
—— 先生の研究について教えてください。 笹尾 廃棄物政策を研究しているんですが、最近は特に産業廃棄物税に興味をもっています。産廃税は岩手県でも導入されていて、名称は自治体によって若干違いますが、現在半分くらいの道府県で実施されており、その効果に関心があります。 産廃税を集めると同時に、リサイクルや適正処理への補助、優良な業者の育成など、複数の政策を融合しておこなわれています。これを「ポリシー・ミックス」というのですが、理論的なことよりも、実際のほうが進んでいる面があり、その背景と効果について調査しています。 廃棄物の量や価格など、正確なデータがそろいにくい分野なのでなかなか難しいのですが……。 —— 地域の持続可能性という点からみれば、産業廃棄物は「都市と地方」の問題とも関わりそうですね。 笹尾 岩手県−青森県の県境の不法投棄問題(1998年に発覚)がありまして。それまでは岩手県ではそれほど大きな産廃の問題はなかったと思うんですけど、あれを期に条例をつくったりして、他の地域に比べて先進的な取り組みがおこなわれています。 都市部から出たゴミが地方に流れてくる構造もあるので、過疎地で不法投棄されないような仕組みをつくるという課題もありますね。 —— 2008年度に「持続可能な社会論A」というESD科目が開講予定ですが、これまでには同様の講義はなかったのですか? 笹尾 私の担当する講義では、「環境経済論I」という講義で、持続可能な開発(SD)という概念があり、環境保全と経済発展を考える上で重要な概念なんだということは触れていますが、持続可能な社会にだけ焦点をしぼった講義は今回のものが初めてです。 「持続可能な社会論A」は、私と、環境法政策論の古川務先生、環境化学の吉村泰樹先生の3人で担当します。前半では、SDをめぐる経緯や現状といった国際的な流れを説明します。一般にSDは環境・経済・社会の3つの視点が必要とされており、講義でもこれらの関係に注目して話をしていきたいと考えています。 今年、国が「21世紀環境立国戦略」をまとめて、持続可能な社会について、(1)低炭素社会、(2)循環型社会、(3)自然共生社会、の3つを柱にしました。低炭素社会は温暖化対策、自然共生社会は生物多様性の保全に対応しています。講義の後半で、私は循環型社会をメインに解説します。 循環型社会というのは、我が国では廃棄物の削減やリサイクルが主としたテーマでしたが、2000年に循環型社会形成推進基本法というのができまして、廃棄物・リサイクルのみならず資源・エネルギーなど広い意味での循環型社会を目指していくんだということを謳ったわけですね。ところが、資源・エネルギー面も含めた循環型社会の建設というのは、まだ途上です。それを知ってもらう。 SDというのは、どうしても抽象的なイメージになりがちですので、講義の中では循環型社会の例として、容器包装のリサイクルといったところを話せればいいかなと思っています。 リサイクルがあまり進んでいない分野として、バイオマス……食品廃棄物・畜産廃棄物・木質系廃棄物、があります。これらについては、国のバイオマス政策や法律、「バイオマス・ニッポン」などを古川先生に紹介してもらって、技術的な面については吉村先生に話していただく予定です。 生物多様性や温暖化問題についても、経済的なアプローチ、法的なアプローチ、自然科学的なアプローチをまんべんなく取り入れた構成にしたいと思っています。 抽象的で一方的な講義にならないように、関連するDVDとかを随時いれて、その感想を書いてもらうという形でやっていければいいなと考えています。また、講義の最後には、学生にSDに関するテーマをいくつか示して、グループで興味のあるものを調べて報告をしてもらう予定です。 —— システムとして持続可能な社会をつくるというテーマのほかに、自分たちがどう関わっていくのかというテーマもあると思います。 笹尾 そのへんが講義としては難しいところで(笑)。私の講義では廃棄物の話をしますが、わりと制度的な内容になるので、学生から見ると距離ができてしまう。学生にレポートを書いてもらっても、「行政が法律を作ってなんとかすべきだ」とかね。他人事のような印象がある。 そういうふうに「自分たちとは関係ない」「できることは何もない」というような印象を与えてしまいがちなので、「みなさんの普段の買い物やゴミの捨て方といったものが集積して、廃棄物問題なり温暖化問題なりにつながっているんだ」ということは喚起していきたいですね。 (談)
参考リンク 用語解説 |
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