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「学びの銀河」プロジェクト
連載「私とESD」
07
健康は
持続可能性のバロメーター
立身 政信 先生
科目「健康のセルフ・コントロールと社会参加」ほか
»岩手大学研究者データベース

―― ESD科目「健康のセルフ・コントロールと社会参加」は、どのような内容になる予定ですか。

保健管理センター

学生センター棟の玄関を入ると、保健管理センターがある。手前のツリーも、健康教育の目的で設置されたもの(年末年始)。
立身  学生に少人数のグループをつくってもらって、そこに教員と保健管理センターの看護スタッフが関与しておこないます。いま保健管理センターが取り組んでいる健康教育……禁煙・肥満防止・性教育・メンタルヘルス・運動による健康づくりなどを参考に、グループのテーマを選んでもらいます。学生が積極的に自分たちの問題としてとらえていく、将来にわたっての健康づくりができるような学生になっていく、ということをやりたいですね。
  学生が何を問題視しているか、ということを大事にしたいです。トイレに保健管理センターのポスターを掲示していますが、あれも学生の中から出たアイディアです。講義の中からそういうアイディアがでてくるといいですね。学生が主人公になって、こちらの専門家はサポートをする、ということが基本です。
  そのときに、「社会」というキーワードを入れたいんですね。社会生活の中で健康づくりをしていく上で、資源として何が必要なのかとか、そういうことを学んでほしい。

―― 健康というと、ふつうは個人の問題だと思うわけですけど、そこに社会的な要素が入るんですか?

立身  「一人ひとりが自分の健康を守ればいい」っていうことに、すぐなっちゃうんですけど。
  禁煙を例にとると、タバコをやめるといっても、個人ではなかなかできないから困っているわけです。以前はタバコの自動販売機が構内に5台あったんですけど、これを生協との交渉をして撤去しました。いまは喫煙ルームをつくって分煙しています。2008年4月からは全面禁煙にするわけですけど、こういうことも一つの社会的な仕組みづくりですね。
喫煙ルーム

建物内に設けられた喫煙ルーム(写真奥)。岩手大学は2007年度末まで分煙をおこなっている。
  それがどういう意味をもつかというと、環境の中からタバコを除いていく、吸わなくなる環境にしていくということです。そうすると禁煙は成功しやすくなってくる。
  入学以前からタバコを吸っている学生は、非常に少なくなってきている。岩大の男子学生の入学時喫煙率は、2000年には12%ぐらいだったんですね。ところが今は2〜3%です。年々少なくなっています。全国平均も半減しています。
  大学を卒業するまでにタバコを吸いはじめなければ、社会人になってからタバコをはじめることはほとんどないはずです。職員に調査しても、タバコをはじめた年齢は20歳前半までになっている。25歳をすぎて、という人は本当に少ないのです。つまり、学生のときに吸わなければ、一生吸わなくてすむ。
  高校で喫煙をおぼえる人が少なくなったというのは、携帯やメールにお金を使っているからという説もあるんですけど、高校の敷地内が禁煙(教職員も禁煙)になったこともあります。東北地方だと2004年くらいから全面禁煙になっています。岩手県だけが取り残されていたんですが、ついに2007年から県立高校が全面禁煙になりました。
  高校からの喫煙が減った理由がそうだとすれば、次は大学を禁煙にすると、喫煙する学生は少なくなると思うんですね。これは社会的な仕組みです。
  もう一つ、一人ひとりが健康づくりに取り組む上でも、仲間と一緒にやることには意味があります。アルコール中毒の治療では、昔から断酒会などのグループでの取り組みがあります。禁煙などでも効果を発揮するんじゃないか。
  学生のグループに、知識と技術を伝えて取り組んでもらう。そういう実証的な講義ということですかね。

―― 一方的に教えるだけではなくて、グループの中で解決の方策を発見してもらうのですか。

全面禁煙の予告

岩手大学は2008年度から構内全面禁煙となる。
立身  禁煙でも、成功した仲間からの話を聞いて、自分も禁煙を達成するというケースが多いんですね。それは「教えてくれた」というよりは、動機づけをしあうということです。
  他のことでも同じですが、教えられて「わかった」というよりも、自分で気がつくほうが効果がありますよね。学習とは、そういうことだと思うんです。自分でやる気をだすなり、気がつかないと実にならない。試験に答えるために覚えたっていうのはね……(笑)。
  健康というのは、まさに生活そのものなんで、「知識」だけではしょうがないんですね。頭でも体でも納得しないといけない。いろいろ情報を提供されても、続かないじゃないですか。結局、三日坊主におわってしまうことが多い。それで悩んでるんですよ、医者も保健師もね(笑)。「言ったって、本当にわかってるんだろうか」って。
  「ヘルス・プロモーション」というんですが、さっき言ったような社会的な環境や仕組み・基盤と、「気づき」……他人に言われてやるんじゃなくて、本人が自分で気がついて始めることが重要です。本当に「自分がしなきゃいけないんだ」と思えれば、やるんじゃないかな。
  肥満対策でも、「運動が必要だ」「食事の調節を」とは言うんです。その知識は専門家が教えられますが、運動するかしないか、食べるか食べないかは本人が決めることですからね。
  知識も、標語的に「週に2日は休肝日」と知っているだけでは駄目で、なぜそうなのかをわかってないといけない。人にも説明できるようになってくれば、自分でも納得する。そのレベルまでもっていきたいな。

―― 具体的には、どういうことでしょう。

立身  タバコはよくない。しかしなぜそうなのか。「そんなに健康によくないんだったら、国で売らなきゃいいでしょ」って必ず言われますから。
トイレでの広報

学生からのアイディアで効果的な健康教育を模索している。こちらはトイレ内のポスター。
  これにはいろんな背景があります。経済的なことからね。「たばこ事業法」からはじまって、法的根拠があってつくってるわけなんです。まずそこから理解する。タバコから得られる税金はどのくらいか、逆に医療費はどのくらいかかるようになるのか。輸入はどれくらいか。タバコの収益のうち、どのくらいが生産者にまわっているのか。そういうことは自分たちで調べることができます。
  ただタバコをやめるというだけじゃなくて、どうしたらタバコがなくてもいい社会ができるのか、ということに発展していくきっかけですね。
  食べ物のこともそうです。地球環境まで、すべて結ばれていきますからね。健康問題というのは、そういう側面があります。

―― 個人の健康を、社会的な背景を含めて学ぶわけですね。

立身  公衆衛生が私の専門なんですが、健康問題には必ず経緯があるんです。何年も前からのトレンドがある。
  肥満は、ずーっと増えてきていますけど、男性と女性にわけてみたら全然ちがう動きをしています。簡単にいうと、「太る男性・痩せる女性」という構図ですね。戦後、まず痩せはじめたのが20歳代の女性で、それから上の世代も痩せてくる。現在は50〜60歳代まで女性は平均的に痩せる傾向にありますね。10〜20歳代には痩せすぎが増えている。一方、男性は一貫して太っていますね。
掲示板

保健管理センターのスタッフが丁寧に返答してくれる掲示板コーナーには、いつも新しい質問・意見の書き込みがある。
  こういうトレンドがあるということは、トレンドの要因があるはずです。経済的な豊かさだとか、運動不足になるような社会の仕組みなどが隠されている。そうすると、社会の動きが人の健康にどう影響を与えるかということが予測されます。
  いま危惧しているのは、市町村合併による学校の合併です。いなかでは、学校がものすごく遠くなって、徒歩通学できる距離ではなくなる。また、熊がでるとか、不審者があらわれるとかいうこともあります。そうすると、スクールバスや車での送り迎えになります。子どもが歩かなくなるんですね。
  かつては、遊びはテレビゲームをしていても、最低限、通学では歩いていた。その機会がなくなるわけです。運動不足だと言われますけど、そういう社会をつくってきたんですね。ますます体力低下や肥満に拍車がかかることが予測されます。どう対策をたてていくか。考えながら、実践しながら学んでいきたいですね。
  世界の持続性を考えるときに、そこに生きている自分たちが健康であるということはいいバロメーターになります。環境がおかしくなってくれば、健康もおかしくなる。密接なつながりがあると思いますね。一番わかりやすいのが公害問題でしょうか。
  保健管理センターだけではカバーできない問題でもあるので、できれば学内のさまざまな分野の方と連携しながらやっていければと思います。

(談)

参考リンク
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