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「学びの銀河」プロジェクト
連載「私とESD」
04
シンプルな教材で
問題解決の“原体験”を
高木 浩一 先生
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―― エネルギー環境ネットワーク(INEEE)では、小学校などでのエネルギー環境教育の「出前授業」を頻繁になさっていますね。こうした科学技術的な体験をひろげることの意図は何ですか?

小学生の前での実演

小学生を前にしての実演。空中放電の光におそるおそる、しかし目は釘づけだ。〔写真提供:高木〕
高木  科学・エネルギー・工作の「原体験」、このへんをキーワードにすすめています。「単純だけど、目から鱗」というようなものを子どもに触れさせる。
  このあいだも小学校で、モーター車の模型を作る出前授業をしました。コンデンサーだけはちょっと特殊なものを使っていますが、あとの材料は100円ショップで買えるものです。そこでも小学生が、いい反応をしてくれましたね。
  たとえば、「簡単な材料から車を作れるんだ」という体験を通じて、「ちょっと工夫すれば、身の回りのものから色々なものが作れる」という理解につながっていきます。便利な生活だと、あまり工夫しなくなりますからね。
  また、自由研究のヒントにもなる。それが100円ショップで買える材料にこだわった理由です。
教材のテキスト

学校ですぐ使える、手作りの学習教材集(手前)と、INEEEの紹介パンフレット(奥)。
  よく「理科離れ」とか言われてますけど、実験をまじえた授業をつうじて、科学への関心を高めることはできるんですよ。やっぱり「原体験」不足なのかな、という気がしてて。「原体験」を増やそうとすると、どうしても教材が必要になってくるんです。そこの部分を、学校の先生にたいしてフォローする。それができればな、と思っていました。
  いろんな体験を組み合わせるから、問題解決をしていくことができるんです。下地になる体験を増やしていかないと、問題を解決する能力は身につかない。それに必要なのは、多くの体験につながる教材……シンプルで、自分たちで工夫できるような教材です。その開発は、大学のようなところじゃないとできない。
テキストの内容

学習教材集は、コピーすれば配付資料になる。小学生でも読めるように、基本的にルビがふってある。
  教材の使用例を書いた冊子も作っています。これは評判いいですよ。取り組みの「報告書」なら、学校で読まれても「こういう取り組みもあるんだな」ぐらいでしょう。この冊子では、小学校の学習の流れにあわせて「こういう教材がある」ということを示す。そのままコピーして小学生が使えるように、ルビもふってある。全事例これまでに実践済みなので、これで授業がやれるということも実証されています。だから、みんな利用してくれてると思うんです。
  新聞にもけっこう取り上げてもらってます。たとえば、「電気新聞」が主催している「エネルギー教育賞」というものがあります。いいエネルギー教育をしている小中高校を表彰するものなんですけど、今年(第2回)の最優秀賞は矢巾東小学校です。岩手大学や東北電力との連携を利用したことが評価された。今までも岩手関係の事例が多く表彰されています。岩手は、エネルギー環境教育では最先端といわれていますよ。視察も多い。このあいだは学生と、地元のラジオ番組にも出演しました。
  また、小学校側のやりたい授業内容にあわせて、最適な講師を紹介するというコーディネートもしています。

―― ということは、「原体験」重視で、エネルギーや環境問題の話まではいかないんですか?

高木  いや、このあいだのモーター車の授業でも、最後にガソリン自動車と電気自動車の違いの話をしています。「車に乗るときにも、環境のことも考えないといけないよ」ということをチクチク言うんです。
  バランスが難しいです。やっぱり、子どもが面白がるようにしないといけないですから。あまり複雑なことを言うと解らなくなってしまう。それでも、言わなくちゃいけないことは言う。
新聞でも紹介された

しばしば新聞でも紹介される。手前は、太陽電池をつかったモーター車。太陽電池以外は、手近な材料で作れるように工夫されている。
  私の場合は3つ、必ず、これだけは言おうというのは決めています。
  「ありがたい・もったいない」が1つ目。2つ目はマザー・テレサの言葉で、「愛の反対は、憎しみではない。無関心だ」。環境問題でも同じです。環境を壊している、という意識があるのならまだいいけれども、いちばん問題なのは無関心だ。
  3番目は、いつも言ってることですけど「技術とは、うまく付きあわなくちゃいけない」。技術は敵視してもいけない。文明がすすんだからいけない、という論調とは一線を画しながらですね。技術があるから省エネや低排出ガスが実現できる。環境問題を解決するためにも、技術に興味をもってもらうことは重要です。使い古された言葉ですが、資源の少ない日本には頭脳しかない。

―― 「原体験」は、小学生のときに体験しなければならないんですか?

興味津々で見つめる

学生も参加しての「出前授業」。手回し発電機で実験しているところ。質問に答えたりすることで、教える側も学ぶ。〔写真提供:高木〕
高木  小学生って反応いいじゃないですか。自分で試せる、見て面白い。工作も、かなりノリノリで作ってくれます。
  中学生だと、素直に表現できない微妙な年ごろというのか(笑)、お互い牽制してしまって、飛びついてこないですよね。高校になると、また変わってくるんですけど。小学生のうちに体験しておいて芽を育てておくほうがいいのかなと思います。
  岩手県は、まわりの県に比べて、高校生の理系比率が低いんです。小中学校での学力テストの結果からみると、中学校のときに「理科離れ」がおこっているようです。理由が何かはわかりませんけど……。
  小学生のときに「原体験」を多くしておくと、中学校に上がっても、そう興味は落ちない。小学生のときの体験が減ってくると、抽象的な概念と現実との結びつきが認識できなくなる。小・中学校での体験を増やすことが、いいんじゃないかな。
  理科好きな子を、より理科好きにすることも大切ですが、全体の底上げをするようにしたい。エネルギー環境教育を義務教育に入れていくことが必要かなと思っています。そのためのコンソーシアムも作っています。

―― この取り組みに、大学生はどう関わっていますか。

高木  中心的には、工学部と教育学部の学生2人がやっています。彼らが出向いて、小学校の先生方と、何をするか、どの教材を使うかを打ち合わせています。彼らだけでやってもらいます。この2人は、ある程度ボランティアなどの経験がある人です。
教材の一例

教材は、盛岡駅前の「アイーナ」(岩手県民情報交流センター)5階でも体験できる。〔写真提供:高木〕
  自分が調べたこと、自分が作った教材を、子どもたちに説明するという体験をすることによって、考え直したり教材に改良を加える。このへんが大学でのESDに関係するでしょうかね。
  また、「出前授業」で小学生の工作を世話するには人手がいるので、何人かの学生にも手伝ってもらっています。こちらは初めてという学生が多い。
  何回かやっていると、そういう学生のリアクションもよくなりますよ。言い方は悪いですけど、「小学生を教材として学生の質を高めていく」という手法もあるかな、と思う。
  就職面接で、圧迫面接ってあるでしょう。それに追いつめられないようにする方法の一つに、リアクションを早くしておく、というのがあるんですけど、そういうのが苦手な学生がいる。でも小学校に行くと、小学生は「なんで、どうして」ってポンポンきいてきますから、対応しているうちに自然と圧迫面接の練習になることがあるんですよ(笑)。だいぶ学生の能力があがります。
  人に接しなれてない理系の学生、けっこう多いじゃないですか。確かに大学では、じっくり解かないといけないことがあるから、リアクションが遅いというのもわかるんですけど、社会に出たらそうはいかないから。その練習をこういう場でね。

―― 教材づくりというのは、ESDや高等教育でも重要かもしれませんね。

高木  大学でも、抽象的なことだけ教える方法では、押し通せなくなっています。最初は中学生や高校生の教科書にあるような図を示したり、グラフを描いてもらうという「体験」を多くしてもらう。小学校から大学まで、全部やり方は共通です。私の場合(笑)。初学者の目線に立てるかどうかです。
  学校のカリキュラム以外で、ハンダゴテを使ったことのある学生も減ってきました。だから、電機部品屋で材料を買うところからやってもらって。回路を自作して、オシロスコープで読み取って、表計算ソフトで計算して……。
  工学部電気電子工学科の1年次後期に、「情報表現実習」という講義をもっているんです。基本的には表計算ソフトを使った微分・積分など、専門と関わることなんですが、一部はESDに関することなんかを題材として扱っていこうとしています。環境問題に関して、問題点は何か、どういう解決技術があるか、我々の行動はどう変えなくちゃいけないか、それを調べて考えてもらってプレゼンする、ということをやっています。
教材の一例

教材の開発は、いろいろな人が知恵を出しておこなう。手にしているのは、鏡の原理を実感するための教材。何が見えるんだろう、という気にさせる。
  わりと人気の科目です。そのかわり苦労も多いんですけど。このテキストを作るのも大変だったですよ(笑)。電気数学の教科書を作るときもそうだったんですけど、今まで例がないやつばかりで。
  高専に勤めていたことがあるんですが、そこでは「いい教材を選んでやれば、仕事の半分は終わったようなもの」と言われていました。そのくらい教材は大切です。

―― エネルギー環境教育を、もっとひろげていくためには、担い手が必要ですね。

高木  これまでは、教材を増やすことに力を入れてたんです。次は、教材を使って実践を増やしていきます。
  これまでも 環境学習交流センター と連携しながらやってきましたが、それだけじゃ追いつかないので、今年から黒沢尻工業高校のみなさんにも参加してもらっています。そうやってエネルギー環境教育の拠点を増やしていこうと考えています。

―― 岩手大学の学生から担い手をつくるというのはどうでしょう。

高木  学生に、学内の「Let's びぎん プロジェクト」に取り組んでもらったことはあります。それくらいは可能ですね。でも、私も忙しいですからね(笑)。学生が自発的に参加してくれるといいんですけど。うまく焚きつける人が必要だと思います。
(談)

参考リンク
© 岩手大学ESD推進委員会