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「学びの銀河」プロジェクト
連載「私とESD」
02
環境のために何ができるか、
具体的に
三浦 靖 先生
科目「食品生産システム学」ほか
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―― ESD科目の「食品生産システム学」は、どんな講義ですか。

三浦  我々の農学部応用生物化学課程では、食品関係の教育・研究を行っているので、学生の就職先も食品関連の企業が多いです。「こういうことを大学で勉強して来てくれればよい」という要望が産業側にはあるわけですが、必ずしも大学でそれを教えきれているわけではないと思います。食品企業から「大学の先生が“これは応用だ”と言うことは、役に立たないことが多い」とさえ言われます。私は民間企業から現職に転職したので、食品関連産業で必要な技術や知識は何だろうといつも考えています。農学は実学だから、得られた知見が利用されなければ意味がないと考えています。世の中が要望している研究をやらなければならい。それが我々の責務だと思っています。
  また、大学での「ものづくり」では、新しい技術で格好良く進めがちですが、実際にはモノを作れば必ずゴミが出てきます。エネルギーも使います。これらを抜きにして「ものづくり」はできません。
  食品関連産業で活躍できる人材を送り出すためには、今までの教育カリキュラムでは抜けている部分がかなりあると思います。食品を企画・設計していく商品開発での技術や、生産・流通・販売に関わる法律のことも知らなくてはならないし、技術がからんでいるときには知的財産のことも考えなければなりません。廃棄物のこともそうです。それらに関することを集めて講義をしています。私は「オモチャ箱のような授業」と言ってますけど。
  そこに環境関連のことも入ってくるわけです。

―― ESDとの関連では、何を重視していますか。

三浦  環境問題については、具体的なことを盛り込まなくてはいけません。観念論のみでは問題解決できないからです。学生を前にして、「省資源にしましょう」「省エネルギーがいいんだよ」と言うのは構わないのですが、それだけでは「ところで、私は何をすればいいの?」ということになってしまいます。
  ESDは、きれいごとでは済ますことができないので、現実に目を向け、自分がどんな役に立てるのかを考え、そして行動する人材に仕上げられればなと思っています。
  この授業は、主にゴミを発生させない食品製造という観点で進めています。
  食品素材である農林水畜産物が1キログラムあったとしたら、これを1キログラムに限りなく近く製品にするような製法なり技術。そういうことを意識していかなければならないと思います。
  そのためには消費者の意識も変えていかなければならなく、それにも触れます。今の若い人たちがこれからの世界を担っていくのですから、その人たちに ものの考え方を切り替えてもらわなければなりません。
  現在、普通に食べている食べ物の中には食品素材の利用率から見れば贅沢なものがあります。昔は許されていたけれども、未来永劫はそれでは対応できないだろうと思われるものです。
100%利用する

私たちの身近にある食品は、原料を100%活用できているだろうか。
  例えば豆腐の場合ですと、大豆の成分の半分程度しか豆腐に変換されていません。製造するときに大量の水を使って、有機物が溶けた大量の排水を出しています。だったら大豆は煮豆にして、全体を食べればいいじゃないかということになってしまいますね(笑)。将来も豆腐を食べ続けたいのであれば、豆乳からしっかりとした豆腐が製造できて、さらに豆腐の食感にザラつきがないようにおからを微粉砕して豆乳に混ぜ込んで豆腐を製造するという、おからが出ない豆腐製法を開発すればよいということになります。
  カマボコの場合にも、魚体の半分も使われていません。水に溶けるタンパク質(筋形質タンパク質)は排水と共に捨ててしまっています。カマボコは水に溶けないタンパク質(筋原線維タンパク質)を基材にしなければ製造できないと理解されてきましたが、水に溶けるタンパク質も含めてカマボコを製造する製法を開発すればいいわけです。
  畜産分野においても、飼料のエネルギーを豚の場合には3分の1程度,牛の場合には8分の1程度にして畜肉に変換するということが、これからはどのくらい可能だろうか。効率よくタンパク質を生産してくれるものはないか。私がいま注目しているのは昆虫です。信州での蜂の子、東北でのイナゴを除いて日本には昆虫を食べる食習慣がほとんどないために、学生に話すと「エーッ」って言われますけど(笑)。
  このような発想転換をしていかないと、人類はきっと滅びてしまう。
  流通面でも、例えばコンビニエンスストアで店頭販売されているおでんは、いつも調味液に浸けて加温し続けていたらカマボコだってふやけてきます。仕込んでから一定時間たっても売れないと生ゴミとして処分されてしまいます。そうだったら、ふやけないカマボコを作ればいいことになります。そのような技術開発テーマは、我々の身の回りにたくさん転がっています。
  あと、環境負荷を低減するエネルギーとしてバイオエタノールやバイオディーゼル油が注目されていますが、トウモロコシやイモ・ナタネなどの食べ物を原料にするのではなく、生産効率が高い原料から作ればいいと考えています。
  こんなふうに、「これは三浦個人の意見ですけれども、こんな考え方あるね」とどんどん学生に提示していって、学生が「いや、僕だったらこうするよ」って考えて欲しいのです。そういうことを伝えていきたいな、と思っているのです。

―― そういう問題提起が重要なんですね。

三浦  学生から「それはそうだ」とか「いや、それは違う」と言ってもらいたいのです。ところが学生は、まず言ってくれないですよ(笑)。「質問は」と訊いても返事が返ってきません。でも何かは考えくれているだろうと思っています。
  そのときに、眠気を誘うような言い方では意識に残らないから、ちょっとトゲがあるくらいの表現で投げかけておきます。そうすれば、心のどこかにそのことを留めてもらえるだろうと思います。そして、実社会に出たときに提起した問題を考え直すなどして解決策を生み出して行動をとってもらえたらなと思っています。

―― 先生の研究と持続可能性との関係はどうなっていますか?

三浦  今までは利用されていなかったものを食品素材に変える研究を行っています。すなわち、「一物全体利用」です。これは釜石市の某水産会社の会長さんの言葉です。一つの食品素材を、限りなく、余すところなく利用するという思想であり、いい言葉だなと思います。サケの可食部分は、重量の4割程度なのだそうです。それを「ぜんぶ使っちゃえ」という発想は重要です。
玄米粉の利用例

玄米粉を使った「玄米クロワッサン」の例。〔写真提供:三浦〕
  最近の研究事例ですと、玄米を物理化学処理して、小麦粉と同等に使える玄米粉を作る技術を5年7か月を費やして特許登録しました(写真)。米の栄養素はヌカに集中しており、精白米ではそれらを取り除いたことになります。ヌカは、昔は家畜のエサとして利用されていましたが、今では産業廃棄物になっています。であれば玄米をそのまま食べればよいことになります。そのための技術開発です。
  酒米も、吟醸酒の場合ですと米粒を外から削り取って中心部の3〜4割しか利用されていません。削り取った方(外側から赤ヌカ、中ヌカ、白ヌカと呼ばれる)をうまく利用する方法を、これから宮城県の企業と共同研究します。
  学生には、「素直に発想しなさい」と言っています。私には仕事上の座右の銘があります。文学者であり物理学者である寺田寅彦の言葉なのですが、「およそ人間の考えることで、実現できないことはない」ということです。人間は、今までの経験・知識の範囲内で発想するものであるということです。たまたまそのときの技術が問題解決できるレベルに到達していなかっただけであって、後から技術レベルが追いつくわけですから、できないことはないことになります。それを肝に銘じておくと、「じゃあやってみようか」と思える。やらない前からダメだという発想では物事は進まないと思います。
(談)
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